大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 平成5年(行ウ)2号 判決

新潟県新潟市鐙西一丁目八番二号

原告

市街化土地株式会社

右代表者代表取締役

萱森美子

新潟県新潟市営所通二番町六九二番地五

被告

新潟税務署長 佐野榮偉

右指定代理人

伊藤一夫

早川順太郎

高橋護

中野亨

田部井敏雄

須藤哲右

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成二年一二月二八日付で原告の昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和六二年一二月期」という。)の法人税についてした更正処分のうち所得金額二八四万〇二九八円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

二  被告が平成二年一二月二八日付で原告の昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度(以下「平成元年一二月期」という。)の法人税についてした更正処分のうち所得金額二五五万一九五二円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

本件は、原告の昭和六二年一二月期及び平成元年一二月期(以下併せて「本件各係争事業年度」という。)の法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)において役員賞与の損金不算入とされた部分を不服として原告が本件各更正処分とこれに伴う各過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)の取消しを求めた事案である。

一  争いのない基礎事実

1  申告及び課税処分の経緯

原告の本件各係争事業年度における法人税についての確定申告及び本件各更正処分等の経緯は別紙一及び二記載のとおりである。

2  本件各更正処分における所得金額の内訳

(一) 昭和六二年一二月期分

(1) 申告所得金額 二八四万〇二九八円

(2) 役員賞与不算入額 六〇〇万〇〇〇〇円

(3) 合計 八八四万〇二九八円

(二) 平成元年一二月期分

(1) 申告所得金額 二五五万一九五二円

(2) 役員賞与不算入額 五〇〇万〇〇〇〇円

(3) 県民税損金不算入額 七万一〇〇一円

(4) 合計 七六二万二九五三円

3  納付すべき税額及び過少申告加算税の額

本件各更正処分における役員賞与の損金不算入が正当とされた場合、原告が納付すべき税額及び過少申告加算税の額は本件各更正処分及び本件各賦課決定のとおりである。

二  争点

原告が支配人である訴外萱森政義(以下「訴外政義」という。)に対し歩合給として昭和六二年一二月期において支給したとする六〇〇万円及び平成元年一二月期において支給したとする五〇〇万円(以下これらを「本件歩合給」という。)は、法人税法(以下「法」ということがある。)上、「役員」に対する「賞与」として損金算入を否認すべきか。

仮にそうであるとすれば、被告が支配人訴外政義に支給した歩合給をかつては損金に算入することを認容していたのに、本件各更正処分において覆したのは信義則に反するか。

1  原告の主張

(一) 訴外政義が「役員」でないことについて

原告と訴外政義は、同人が原告の代表取締役であった昭和六二年一二月一五日から同六三年一〇月一日までの間を除いて、昭和六一年以降毎年労働契約を締結し、原告の社員(支配人)として原告代表者の指示に従って営業活動をしていた。原告においては、原告代表者が契約の締結権限や金融機関からの融資あるいは給与支給に関する決定権を全て掌握していた。

(二) 本件歩合給が「賞与」でないことについて

(1) 本件歩合給は、原告と訴外政義との間の前記労働契約に基づき、同人が原告代表者の指揮・監督のもとに営業活動を行い、成約にまで至らしめたことに対する対価として支払われたものであり、会社役員が会社の利益から得る賞与とは全く性質を異にする。

(2) 法人税基本通達九-二-一五は、法人が役員に対して固定給のほかに歩合給を支給している場合に、この支給が使用人に対する支給基準と同一の基準によっているときは、これらを定期の給与とする旨の定めがあるところ、原告には他に比較すべき使用人はいないが、本件歩合給は、前記労働契約書に基づき訴外政義の販売実績額により算定し、支給されたものであるから、定期の給与とすべきである。

(三) 損金算入の否認が信義則に反すること

原告は、昭和六一年一月一日から一二月三一日までの事業年度(以下「昭和六一年一二月期」という。)において、訴外政義に歩合給として二三〇万円を支払い、これを法人所得の計算上損金に算入したが、被告はこれを否認しなかった。原告としては、本件各係争事業年度もこれと同様の処理をしたもので、右各期に被告が損金算入を否認することは信義則上許されない。

2  被告の主張

(一) 訴外政義が法人税法上の「役員」であることについて

法においては、法人の取締役、監査役、理事、監事及び清算人以外の者であっても、事実上法人の経営に従事している者で政令で定めるものは役員に当たるとし、この者に対して支給する賞与については、各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入しないとしている(法二条一五号、三五条一項)。これを受けて法人税法施行令(以下「施行令」という。)は、同族会社の使用人のうち、同令七一条一項四号イからハまでの規定中「役員」とあるのを「使用人」と読み替えた場合に同号イからハまでに掲げる要件のすべてを満たしている者で、その会社の経営に従事しているものを役員とする旨規定している(七条二号)。そして、以下の事実からすれば、訴外政義が法人税法上の役員であることは明らかである。

(1) 原告が同族会社であること

同族会社とは、株主等の三人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人が有する株式の総数又は出資の金額の合計額がその会社の発行済株式の総数又は出資額の一〇〇分の五〇以上に相当する会社である(法二条一〇号)。そして、株主等の親族は、右の特殊の関係のある個人にあたるものとされている(施行令四条一項一号)。

ところで、本件各係争事業年度を通じて、原告の株主は合計八名であるが、このうちの一名を除いた原告代表者萱森美子(訴外政義の妻。保有株数五二〇〇株)、訴外政義(同二〇〇株)、同萱森英樹(訴外政義と原告代表者の長男。同六〇〇株)、同萱森陽一(同じく二男。六〇〇株)、同萱森敦子(同じく長女。同四〇〇株)、同湯浅佐久二(原告代表者の父。同四〇〇株)及び同湯浅均(原告代表者の兄。同四〇〇株)は、いずれも親族関係にあって、右七名が保有する株式の総数は七八〇〇株であり、発行済株式数(八〇〇〇株)に占める割合は九七・五パーセントに達する。

したがって、原告は同族会社である。

(右の各事実には争いがない。)

(2) 特株割合について

右のとおり、親族関係にある原告代表者ら七名の株主の特株割合は九七・五パーセントであるから、原告の使用人である訴外政義は、施行令七条二号において引用する同令七一条一項四号に規定する第一順位の株主グループに属し、かつ、右グループの特株割合は一〇〇分の五〇以上ということになり、同号イ及びロに該当する。また、訴外政義及びその妻である原告代表者が保有する株式数の合計は五四〇〇株で、特株割合は六七・五パーセントであって、同号ハに規定する特株割合(一〇〇分の五)を超えるので、同号ハに該当する。

(3) 訴外政義が経営に従事していること

〈1〉 原告は不動産売買を主たる業とする法人であるところ(争いがない。)原告が土地及び建物を譲渡し、あるいは譲渡に係る物件を購入するに際して、購入を企図し、売買価格の決定等取引内容につき具体的交渉を行い、取引内容を決定し、売買契約の締結に当たる等していたのは訴外政義である。

〈2〉 本件各係争事業年度において、原告に常時勤務し、報酬あるいは給与を受けていた者は訴外政義と原告代表者の二名のみであって、その他には臨時的な従業員がいたに過ぎないが、歩合給の支払額を除いてみても、訴外政義に対する毎月の支払額は、原告代表者に対する支払額を常に上回っており、また、訴外政義は、昭和六三年一〇月一日付で原告の代表取締役を退任し、同月三日付で支配人に就任しているが(右退任及び就任の事実は争いがない。)、その前後において、同人の報酬月額と給与月額には異動がない。

〈3〉 訴外政義と原告代表者は、別表記載のとおり、原告の代表取締役への就任及び退任を繰り返しているが、訴外政義が昭和六三年一〇月一日付で原告の代表取締役を退任しなくてはならなかったのは、境界棄損及び器物損壊の罪により同人が刑事罰に処せられたためであって(右各事実は争いがない。)、右退任後においても、同年一一月二三日付売買契約書(売主原告、買主訴外赤塚幸夫)及び右売買契約に関し、原告が昭和六三年一一月一三日から平成元年二月一〇日までの間に発行した五通の領収書には、いずれも原告の代表取締役を訴外政義とする社判が押印されている。また、訴外政義は、右退任後にもかかわらず、右売買契約の交渉に当たり、訴外赤塚幸夫に対し、「代表取締役萱森政義」と表示されている名刺を交付している。

〈4〉 原告は、訴外政義が代表取締役を退任したのちの平成元年二月二〇日に、被告に対して、昭和六三年一二月期の法人税確定申告書を提出しているが、右申告書の代表者欄には、「萱森政義」と記載されている(争いがない。)。

〈5〉 原告は、訴外新潟信用金庫米山支店に対して、昭和六三年一一月一〇日付借入申込書(借入額二五〇万円)及び同月二六日付借入申込書二通(同三〇〇万円及び四〇〇万円)を提出しているが、右各借入申込書の代表取締役欄には「萱森政義」と記載されており(右各事実は争いがない。)、同支店は右各申込みを受けた際に、同人を代表取締役であると認識して貸付を行っている。

また、同じく原告の借入先である訴外新潟県信用農業協同組合連合会においても、昭和六二年二月二九日及び同年九月二八日の各貸付に際して、訴外政義を実質的な代表取締役であると認識して貸付を行っている。

〈6〉 昭和六二年九月から同年一二月まで及び昭和六三年三月から同年一一月までの二度にわたり原告に勤務していた元従業員によれば、販売物件についての価格決定、仕入及び販売に関しての交渉などは訴外政義が行っていたこと、原告代表者は、帳簿の記帳や来客の応対等をしていたに過ぎないこと、訴外政義と原告代表者との間で代表取締役の変更があった際においても、両名の職務内容には何ら変化はなかったこと、訴外政義は常に「社長」と呼ばれており、経営に関する決定権限を有していたことが明らかになっている。

以上の各事実からすれば、訴外政義が法人税法上の役員に該当することは明らかである。

(二) 本件歩合給が「賞与」と認められることについて

法人税法上、賞与については、同法三五条四項が、役員又は使用人に対する臨時的な給与のうち、他の定期的な給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう旨規定している。そこで、右規定を前提に本件について検討する。

(1) 本件歩合給は退職給与ではない(争いがない。)。

(2) 訴外政義は本件歩合給の他に定期の給与を受けており、本件歩合給は、毎年八月及び一二月という通常の賞与を支給する特定の時期に支払われており(支払時期については争いがない。)、支給形態からすれば臨時的な給与であることが明らかである。

(3) 本件歩合給の支給は、原告と訴外政義との間で締結された労働契約書の記載を前提としても、必ずしも労働契約上の支給基準どおりに支給されていたものではなく、その算定根拠は極めて不明瞭である。以上の各事実からすれば、本件歩合給の支給が、法人税法上、役員である訴外政義に対する賞与であることは明らかであるというべきである。

(三) 損金算入の否認が信義則に反しないこと

原告の昭和六一年一二月期の法人税について、被告は原告が訴外政義に支払った歩合給二三〇万円の損金処理を否認しなかったが、それは、更正処分及び賦課決定についての期間制限(国税通則法七〇条一項)のため、更正処分及び賦課決定をなしえなかったに止まり、何ら信義則に反するものではない。

第三争点に対する判断

一  訴外政義の「役員」該当性について

1  原告が法人税法上の同族会社であること、原告代表者らの持株割合については争いがない。

2  当事者間に争いのない事実及び証拠(甲一四、一五、乙ないし八、一〇、一一1、2、一二1ないし5、一三、一四1、2、一五、証人萱森政義)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、不動産の売買及び斡旋仲介を主たる業としていたが、訴外政義が原告の代表取締役に就任していた期間中は、原告の不動産の売買交渉及び売買価格の決定等に関しては、訴外政義が行っていた。

(二) 訴外政義は、昭和五五年五月一三日に原告の代表取締役を辞任し、同六一年六月三〇日に原告支配人に就任し、その旨の登記が経由されたが、右支配人就任後である昭和六二年九月八日、原告は訴外大塚幸夫との間で新潟市内の土地建物を目的とする売買契約を締結した。右契約締結に至るまでの事前交渉、現地検分及び売買価格の決定等は全て訴外政義が対応し、原告会社内で契約書に原告代表者名を記入し押印したのも訴外政義であった。また、右契約書中の特約事項についても、訴外政義が交渉を行い、記入した。

(三) 原告は、訴外政義が原告支配人として登記されていた右期間中の昭和六二年七月三一日及び同年九月三〇日に、訴外新潟県信用農業組合連合会から事業資金の融資を受けているが、その際訴外政義は原告代表者とともに右連合会に来店し、原告代表者とともに借入金額、借入目的、担保設定について説明し、さらに訴外政義は償還財源について説明した。

(四) 訴外政義が、昭和六三年一〇月一日付で原告の代表取締役を退任した後である同年一一月二三日、原告は、訴外赤塚幸夫との間で、新潟市内の土地建物を目的とする売買契約を締結し、その契約書の買主の欄に原告代表者として訴外政義の名が入った社判を押捺し、右契約の手付金及び売買代金の領収書(昭和六三年一一月一三日から平成元年二月一〇日までの間に計一〇通発行)にも、右同様の社判を押捺した。また、右売買契約締結に至るまでの交渉、現地検分等を行ったのは訴外政義であり、その際、同人は原告代表取締役との肩書の付いた名刺を右赤塚に交付し、契約後の代金支払についても、訴外政義を通じて行っていた。

(五) 原告は、訴外政義が代表取締役を辞任したのちである昭和六三年一一月一〇日及び同月二六日付で、訴外新潟信用金庫米山支店に対し、借入申込書合計三通を提出しているが、右各借入申込書の代表取締役欄には、訴外政義の名の入った社判が押捺されており、同支店は、原告代表取締役は訴外政義であると認識して貸付を行った。また、右借入の際を含め、原告が借入申込みをしたり、融資条件等について交渉する際には、訴外政義が一人で同支店に来店し、交渉を行っていた。

(六) 原告は、訴外政義が代表取締役を辞任したのちである平成元年二月二〇日に、被告に対して、昭和六三年一二月期の法人税確定申告書を提出したが、右申告書の代表者欄には、訴外政義の名の入った社判が押捺されていた。

(七) 本件各係争事業年度において、原告に常時勤務し、報酬あるいは給与を受けていた者は訴外政義と原告代表者の二名のみであって、その他には臨時的な従業員がいたに過ぎないが、歩合給の支払額を除いてみても、訴外政義に対する毎月の支払額は、原告代表者に対する支払額を常に上回っており、また、訴外政義が昭和六三年一〇月一日付で原告の代表取締役を退任したのちも、同人の報酬月額と給与月額には変化はなかった。

(八) 原告が、昭和六二年三月以降平成二年四月までの間に、訴外住友銀行新潟支店に対して借入申込をする際は、ほぼ訴外政義のみが来店し、融資担当者に借入金額、担保の提供等について説明し、借入の手続きをとっていた。同行は、原告代表者から借入の申込を受けたことはなく、訴外政義に余程の都合があって来店できない場合のみ、原告代表者が来店していた。

(九) 訴外政義と原告代表者との間で代表取締役の交替があった際においても、両名の職務内容には何ら変化はなく、訴外政義は常に「社長」と呼ばれていた。

以上認定した事実及び前記1の事実によれば、訴外政義は、本件各係争事業年度において法施行令七条二号の要件を充たす使用人であると認められるから、同人は、法人税法上、役員として扱われるべきである。

3  これに対し、訴外政義は、原告の社員として原告代表者の指示に従って営業活動を行い、契約の締結権限や金融機関からの融資あるいは給与支給に関する決定権は原告代表者が全て掌握していた旨証言するが、右証言は右2で認定した各事実に照らして信用できない。

甲一七、一八及び一九の各1ないし5は、前記訴外赤塚幸夫との売買契約において作成された契約書及び領収書中の原告代表者名を訂正したことを証するものとして提出されたが、右訂正は、被告職員が右赤塚宅に臨場した日(平成二年一〇月二日)から程無い時に原告代表者と訴外政義が右赤塚宅を訪れてしたものであることからすると(乙七、一五によって認められる。訴外政義は、赤塚宅に行ったことはないと証言しているが、信用し難い。)、前記2の認定を左右するものではない。

二  本件歩合給の「賞与」該当性について

1  次に、訴外政義に対して給付された本件歩合給が法人税法上の「賞与」に該当するか否かについて検討するのに、右歩合給が訴外政義に対する退職給与でないことについては当事者間に争いがない。

2  証拠(甲三ないし八、乙一ないし三)によれば、次の事実が認められる。

(一) 昭和六一年一月一日、同六二年一月一日、同六四年一月一日付でそれぞれ作成された原告と訴外政義との間の労働契約書(甲三ないし五)によれば、訴外政義の賃金はいずれの契約においても固定給プラス歩合給とされ、固定給は毎月二五日に支給されることになっており、歩合給は本件各係争事業年度については成約額の五パーセント以内の金員が年二回に分けて支給されることとなっていた。そして、原告は、本件各係争事業年度において、次のとおりの金員(本件歩合給)を訴外政義に対し歩合給として支給し、法人税の確定申告において損金算入を行ったところ、被告はこれを賞与として損金算入を否認した。

(1) 昭和六二年一二期

〈1〉 同年八月一三日 一〇〇万円

〈2〉 同年一二月一四日 五〇〇万円

(2) 平成元年一二月期

〈1〉 同年八月二五日 二〇〇万円

〈2〉 同年一二月二八日 三〇〇万円

(二) 右(1)〈1〉の歩合給は、昭和六二年一月、五月、六月の売上高計四五五〇万の三パーセントの一三六万五〇〇〇円(但し、甲七には一三五万五〇〇〇円と記載されている。)を三六万五〇〇〇円下回り、右(1)〈2〉の歩合給は、同年九月ないし一一月の売上高合計一億〇六九〇万円の五パーセントの五三四万五〇〇〇円を三四万五〇〇〇円下回り、右(2)〈1〉の歩合給は、平成元年一月、三月、六月の売上高合計九〇四〇万円の五パーセントの四五二万円(但し、甲八には四五四万五〇〇〇円と記載されている。)を二五二万円下回り、右(2)〈2〉の歩合給は、同年九月の売上高二三七〇万円の五パーセントの一一八万五〇〇〇円を一八一万五〇〇〇円上回っている(もっとも、甲八には、同年八月に支給すべき歩合給を四〇〇万円、同年一二月に支給すべき歩合給を一〇〇万円とし、同年八月に支給すべき右金額の内二〇〇万円を同年一二月の歩合給と併せて支給した趣旨の記載がある。)

(三) 本件各歩合給は、昭和六二年分及び平成元年分の給与所得に対する所得税源泉徴収簿(甲七、八)において、賞与等の欄に記載され、これにかかる徴収税額も賞与等の分として別途、算出されている。

(四) 各係争事業年度における訴外政義の固定給は、毎月二五日ないし二八日に支払いがなされ、その金額は、昭和六二年一月から三月分までは各一八万四〇〇〇円、同年四月から一二月分までは各二六万八〇〇〇円、同六四年一月から平成元年一二月までは各四〇万円となっている(いずれも社会保険料、源泉徴収税額を含む。)。

以上認定した本件歩合給の支払時期、支給回数、金額、訴外政義に対する固定給の支払状況及び本件各係争事業年度における給与所得に対する所得税源泉徴収簿の記載からすれば、本件歩合給は、法人税法上、いずれも訴外政義に対する賞与と認めるのが相当である。

3  原告は、本件歩合給は、原告と訴外政義との間の前記労働契約に基づき、同人が原告代表者の指揮・監督のもとに営業活動を行い、成約にまで至らしめたことに対するものであり、会社役員が会社の利益から得る賞与とは全く性質を異にするものである旨主張するが、訴外政義が代表取締役を辞任していた間にも原告の業務に主体的に関与し、業務を遂行していたことは前記一2で認定したとおりであり、本件歩合給の算出根拠も必ずしも明確でないこと(前記2(二)参照)からすれば、原告の右主張は採用しない。

4  また、原告は、法人税基本通達九-二-一五において、法人が役員に対して固定給のほかに歩合給を支給している場合に、この支給が使用人に対する支給基準と同一の基準によっているときは、これらを定期の給与とするとされているところ、原告には他に比較すべき使用人はいないが、本件歩合給は、前記労働契約に基づき訴外政義の販売実績額により算定し、同人に支給されたものであるから、定期の給与とみるべきである旨主張するが、原告も自認するとおり原告には訴外政義に比較すべき使用人はいないものであり、本件歩合給の支給が一定の基準によっていると必ずしもいえないことから、原告の右主張も理由がない。

三  信義則違反の有無について

以上のとおり、原告が訴外政義に対して支払った本件歩合給は法人税法上の役員賞与と認められ、その損金算入を否認した本件各更正処分および過少申告加算税の各賦課決定はいずれも適法である。

そうすると、原告が昭和六一年一二月期に訴外政義に対して支払った歩合給について被告が法人税法上の役員賞与と認めて損金算入を否認しなかったこと(弁論の全趣旨によれば、その理由は国税通則法七〇条一項の定める更正処分及び賦課決定についての期間制限によるものと認められる。)のみを根拠として、被告が本件各更正処分において本件歩合給の損金算入を否認したことを信義則に反するということはできない。

第四結語

よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担については、行訴法七条及び民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田幸夫 裁判官 戸田彰子 裁判官 内田義厚)

別紙1

自昭和六二年一月一日 至昭和六二年一二月三一日の事業年度分

〈省略〉

別紙2

自昭和六四年一月一日 至平成元年年一二月三一日の事業年度分

〈省略〉

別表

萱森美子及び萱森政義の原告会社役員への就任状況

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例